ちぎれるバランスウエイト SLIT FIVE & PRO 開発物語
こんにちは、ちぎれるバランスウエイトSLIT FIVE & PROの開発者、竹内です。今回は、私たちの製品が誕生し、進化を遂げるまでの道のりを、物語のように綴ってみました。
プロローグ:SLIT FIVEの歴史
実は、ホイールバランスウエイトの物語は私が入社する7年も前から始まっていたんです。
当時から、鉄に亜鉛メッキを施し、防錆塗装を行い、めくりやすく強力な粘着力を持つという、現在と同じ基本構造の製品が販売されていました。使いやすさと手頃な価格で、多くのユーザーから愛されていたんですよ。
私はその歴史ある会社に、異業種から転職してきました。そこから私の開発物語が始まるんです。
第1話:タイヤ屋さんデビュー
2022年4月、タイヤ業界に飛び込んだ私。
「さあ、竹内さん。タイヤの組み替えやってみましょう」
先輩の言葉に、内心「えっ、もう!?」と焦りながらも、意気揚々と作業に取り掛かりました。
が、これが予想以上に難しい。ホイールにバランスウエイトを貼り付ける作業で、何度も失敗。
「うーん、これは思ったより大変だな…」
そんな日々が続いていました。
第2話:閃きの瞬間
2022年7月のある暑い日。いつものようにバランス調整で格闘していると…
「あれ?ハサミがない」
仕方なくカッターで切ろうとしたら、うまく切れず宙ぶらりんに。思わず手で引っ張ったら…
「おっ!ちぎれた!」
その瞬間、頭の中で電球が点いた気がしました。
「そうか、手でちぎれるバランスウエイトを作ればいいんだ!」
興奮冷めやらぬまま、さっそく試作品作りに没頭。カッターで切れ目を入れて、いろんなパターンを試してみました。
第3話:仲間を巻き込め!
「よし、これはイケる!」
自信を持って、社内の仲間たちに試作品を渡してみました。
「おー、これ便利じゃない?」
「女性でも簡単にできるね」
みんなの反応を見て、これは本当に製品化できるかもしれないと確信しました。
第4話:実用新案への挑戦
「よーし、じゃあ特許を取ろう!」
…と思ったのですが、特許のことなんて全然わかりません。知り合いの弁理士さんに相談したら、
「これは実用新案の方が良さそうですね」
なるほど、実用新案か。
調べてみると、似たような製品は見当たりません。
「よし、これは行けるぞ!」
2022年9月、ドキドキしながら実用新案の申請書類を提出。約2ヶ月後、無事に登録完了!
「やったー!これで製品化への第一歩だ!」
第5話:量産への道のり、想像以上の難関
さあ、いよいよ量産です。…と思ったのですが、甘かった。
中国の工場に連絡すると、
「開発が終わって量産できる状態になったら作ってあげるよ」
「まあ考えておくよ」という、あっさりした返事。
「え?そんな…」
でも、諦めるわけにはいきません。
「よし、自分たちでできることからやろう!」
最大の課題は「青いフィルムだけを切る」こと。カッターで手作業ならできますが、そんなの現実的じゃない。
毎日頭を悩ませていると、ふと閃きました。
「そうか、プレス機を使えばいいんだ!」
第6話:プレス機との格闘
さっそくプレス機のメーカーを探し、相談。
「1シート2秒で作れますか?」
「無理です」
…当然ですよね(苦笑)
でも、諦めません。プレス1回で何枚できるか、実際に動かしながら考えました。
「7シートなら、50秒サイクルでいけそうだ!」
治具屋さんに相談して、小さな試作品を作ってもらいました。
結果は…なんと90点!
「やった!これならいける!」
興奮冷めやらぬまま、本番用の大きな治具を作成。プレスメーカーで試し打ちをさせてもらうと…
「おー、80点!あとちょっと!」
第7話:思わぬ落とし穴
「よーし、これで量産だ!」
…と思った矢先、大問題が発覚。
シートの長さが、ロットによって違うんです。
「えー!そんなの聞いてないよー!」
中国の工場に問い合わせると、
「設備ごとに誤差があるんです」
がーん。同じサイズじゃないから金型が決められない。
「日本での開発は、一旦ストップかな…」
落胆しながらも、中国工場に説明して彼らに託して待つことに。
第8話:予想外の進展
ある日、突然中国からサンプルが送られてきたんです。
「えっ!?」
それまで何の連絡もなかったので、正直なかば諦めかけていました。でも、継続して開発を進めてくれていたんですね。
「わぁ、すごい!まだ頑張ってくれてたんだ!」
手に取ってみると、以前よりもかなり改善されています。
「これは…いける!」
感動と喜びで胸がいっぱいになりました。
第9話:決断の時
しかし、喜びもつかの間、現実的な問題に直面します。
「でも、どうしよう…従来品の在庫もないし・・・」
しばらく考えた末、決心しました。
「よし、うまく作れるか分からないけど、最低単位で発注して試してみるか!」
リスクはありますが、ここで踏み出さなければ始まりません。
「行くぞ!」
意を決して、発注のボタンを押しました。
第10話:危機と決断
2023年6月、ついに販売開始!
商品名は「ちぎれるバランスウエイトSLIT FIVE」です。いままではバランスウエイトという商品名とは呼べない名前でしたが、しっかりと差別化できる名前を付けました。
テスト販売の感想では、
「これ、便利だね!」
「いいじゃん!」
という声をいただきました。
開発開始から1年半。長かったような、あっという間だったような…
でも、喜びもつかの間。販売開始から約1年後、突然、会社が倒産の危機に直面したんです。
「え?こんなときに…」
頭の中が真っ白になりました。でも、すぐに次の思いが湧き上がってきたんです。
「この製品をこのまま終わらせるわけにはいかない!」
SLIT FIVEを知ってもらいたい、便利に使ってもらいたい。その一心で、社長に相談しました。
「なんとか続けられないでしょうか?この製品には大きな可能性があると思うんです!」
幸い、社長もSLIT FIVEの将来性を認めてくれました。何度も話し合いを重ねた結果、私が新会社を立ち上げて、この商品の販売を引き継ぐという結論に至ったんです。
「本当にありがとうございます。必ずSLIT FIVEを知ってもらいます!」
この決断は、単なるビジネスの話じゃありません。SLIT FIVEの可能性を最大限に引き出すための、私の決意だったんです。
第11話:新たな出発
新会社設立の準備を進めながら、すぐに中国の工場に飛びました。今度はSLIT FIVEの新たな販売元としての交渉です。
事情を説明すると、工場の方々もSLIT FIVEの将来性を理解してくれて、なんと継続生産を快諾してくれたんです。
「ありがとうございます!本当に感謝です」
安堵の気持ちと共に、改めてSLIT FIVEへの責任の重さを感じました。
そこで、世界各地の市場動向について色々と教えてもらいました。
そして、ヨーロッパで人気の高品質製品の話を聞いたんです。
「キレイに剥がれるテープを使った商品があるんですよ」
それが、後のPROの元になる製品でした。
2017年にドイツの会社が開発を始め、2019年にスウェーデンの会社の提案で完成したそうです。
「へぇ、すごいですね。でも粘着力は大丈夫なんですか?」
「粘着剤は同じです。テープの素材を変えて強度を上げたんです」
実際に試してみると、驚くほどキレイに剥がれる!
「これは凄い。でも…ちぎれるかな?」
すると、なんと試作品を見せてくれたんです。
「おお!ちぎれる!少し硬いけど、これなら大丈夫!」
これが、現在のちぎれるバランスウエイトPROの誕生秘話です。
エピローグ:未来に向けて
SLIT FIVEとPROの開発は、本当に大変でした。
この開発を通じて、国や地域によって市場ニーズが大きく異なることも学びました。
例えば、中国では価格重視、ヨーロッパでは品質重視。
それぞれの市場に合った製品開発の重要性を痛感しています。
多くの方々の協力があって、ここまで来られました。
治具屋さん、プレス機屋さん、中国の工場の皆さん、そして何より、この製品を使ってくださるお客様。本当にありがとうございます。
これからも進化を続けるちぎれるバランスウエイトPRO。
「昔はハサミで切ってたよね」「ノリがベトベトだったよね」
そんな風に言われる日を夢見て、これからも頑張ります!
2024年6月吉日
開発者 竹内